願心

 大本山佛通寺の前館長であり、私が参禅させていただいておりました凌雪軒老大師より頂戴した墨蹟です。願心(がんしん)と書かれています。この墨蹟は、私が僧堂での修行を終え佛通僧堂から下山する際(正式には暫暇といいます)、出発のご挨拶に老師の下に伺った際にいただいた墨蹟です。老師より「この墨蹟をもってかえりなさい」と言われ、願う心があれば必ず成就できると教えていただきました。
 僧堂では、読んで字のごとく、暫暇(ざんか)とは“しばらく暇をいただく”という意味であり、下山した雲水はまだまだ修行中なのであります。僧堂から出発の際には、誰に見送られることなく他の雲水の見送りも無く一人山門を後にするわけです。去る者追わずと言われましても、あまりにも寂しい出発は厳しい修行期間から僧侶としての旅立ちを切り替えるに、もしかしたら最適な見送り方なのかも知れません。
 その後、老師は佛通寺を退山され自坊へお帰りになりお会いできておりませんが、自らの戒めとして大切に飾らせていただいています。常に心に願心を。